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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論 実践編その2 [音楽表現]

実践編第2弾はタレガの「アルハンブラの想い出」を取り上げてみます。
言うまでもなくクラシックギターを代表するトレモロの名曲です。誰もが知っている名曲でありながら、アマチュアのギター奏者にとってトレモロの技術や課題にばかり目を向け勝ちです。この曲からトレモロ奏法という要素を取り除き旋律と和声に着目してみましょう。メロディを声に出して歌ってみれば分析などしなくてもフィーリングで歌えることでしょう。カラオケで歌謡曲を歌う時に楽譜を気にしないことと同じです。ですが改めて楽譜を見てみると気付きがあるかもしれません。何にしてもトレモロや左手の運指の都合ではなく、旋律のフレージングや和声の流れを意識することが良い演奏に必要なことだと思います。

1.曲の構成
イ短調の部分をA,イ長調の部分をB、コーダをCとするとAABBABCという構造をしています。ダ・カーポを省略するとAABBCです。

2.Aの和声分析
下の譜例はメロディと和声の構成音を並べた物で、大まかなコードネームと和声進行を書いています。大まかというのは構成音が不足している箇所は他の解釈も有り得ますし、難しい箇所は?としています。正確な分析よりも曲を把握するための大雑把な分析で良いという方針です。
アルハンブラ.png

4.フレーズ
シンプルに4小節フレーズと解釈して良さそうです。ですが4小節目と5小節目はフレーズが途切れることなく繋がります。また各4小節を見ると音は異なりますが、音形は音階上を下がって上がるとても似た形をしています。1から4小節を大きなAmの主和音の部分、5小節目から8小節目をCコードの部分、9,10小節はFコードの部分と見るとここまでは全てイ短調の主和音(T)とそれに近い代理和音となっています。11小節目にドミナントが現れますので4小節+4小節+2小節と階段を上がるように高揚して行き、11小節目のドミナントに至ります。さらに11小節の1拍目は非和声音であり、かつ三連譜の装飾的音形が付加されています。ですので11小節目の1拍目に前半のピークがあると考えて良さそうです。この9小節目からの4小節間のフレーズですが技術的には9小節目の始めのドの音が1弦で鳴り易く、10小節、11小節で2弦で旋律を弾く時に沈みがちであることを考慮して全体の音量設計をする必要があります。なお12小節はドミナントセブンスで終止しておらず、次の13小節目に繋がります。13小節の和声をどう分析するかは異論もあるでしょうが、私はAmが変化したAに非和声音のメロディが乗っていると解釈しました。長三和音であるはずが翳りのある13小節からはピークを過ぎて少しづつ収まっていきます。ですがAパートの最後はコードEのドミナントであり、トニックに解決せずに冒頭に戻ります。この最後のEがイ短調のドミナントであり、リピートを出たイ長調のドミナントでもあることで、イ短調からイ長調への滑らかな転調を実現しています。

5.技術的なこと
トレモロの粒を揃えることも大切ですが、イ短調部分は旋律をレガートに繋げることが難しい曲です。その為には右手よりも左手の滑らかな切り替え、ガイドフィンガーなど次への準備が重要です。例えば3小節目に入った時点で2の指を2弦4フレットに置いておき、4小節目の3拍に備えるなどです。



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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論 実践編その1 [音楽表現]

実践編では具体的な曲を使って説明していきます。今回はソルの練習曲Op31-3です。

1.曲の構造
アウフタクトの8分音符2つの小節は含めず小節数を数えると34小節あります。譜例に縦線を書き込んでいるのがフレーズの区切りです。最初の4小節+4小節で大きな節を作っており、これをAとすると、次の8小節はBになり、その次の8小節はまた最初のAに似た部分でA'、それ以降は結部(コーダ)になっています。A+B+A'+コーダという構造をしていることが楽譜の景色から読み取れます。
Sor_31-3.png
2.拍子
この曲は8分の6拍子です。8分の6拍子は3+3で大きな2拍子、拍の中に小さな3拍子があります。演奏する上で難しいのは3つの8分音符の固まりと2拍子を意識しすぎると所謂タテノリという杭を打ち込むような重たい演奏になってしまうことです。ラタタラタタと軽いステップで流れるようにリズム感を目標にしてください。

3.アウフタクト
この曲はフレーズの開始が拍子の途中にあるアウフタクト(弱起)の曲です。アウフタクトで始まる曲はその拍子は持つ拍節感の途中から開始して欲しいという意味ですから、拍節のリズム感は小節の1拍目からの6拍子であり、リズムの重心は1拍目にあります。ですからアウフタクトの音形は次の小節の1拍目に向かうように演奏する必要があり、聴いている人にリズムの開始点は3つ目の音だと伝わる必要があります。ですから最初の2つの8分音符は軽く演奏する必要があります。軽いというのは単純に弱いという意味ではありませんし、次の1拍目も強ければ良いというものでもありません。要は聴いている人が自然に6拍子のリズムを感じることが出来れば良いのです。

4.調性
譜例に書いてあるように調号から想定される長調と短調を候補として曲の最後や最初の音や和声から長調か短調かを判断してください。この曲はニ長調です。

5.和声
ニ長調のトニックはコードDで、サブドミナントはコードGであり、ドミナントおよびドミナントセブンスはAとA7です。これだけを表記したものが次の楽譜です。3段目の前後は一旦謎の区間とします。一見してトニックとドミナントセブンスが多いことが分かります。
Sor_31-3Code.png
6.和声の変化点
上の譜例を見ると小節の中で和声が変化していることが分かります。そして特徴的には低音声部がレ(d)やラ(a)というギターの開放弦が多用されています。これは単に音を出すだけなら左手の押さえが必要ありませんので簡単です。しかしながらA7の時に音名d(記譜のレ)が残ると和音の響きが濁ります。ピアノという楽器にはペダルという音を延ばす仕組みがありますが、和声の変化する場所ではペダルを踏み直して響が濁らないようにします。ギターも同じでピアノでペダルを離す操作に相当する音を消すという操作が必要になります。消音というギターの技術についてここでは説明しませんが、レを出す時にはラを消音し、ラを出すときにはレを消音するという技術が必要になります。

7.部分転調
この曲の9小節目(1アウフタクトを含む)からの8小節間の謎の区間は転調してると考えると理解出来ます。転調は調号を変えて明示的に行うこともありますが、この箇所のように結果的に転調している場合もあります。転調と言わずに借用と説明することも出来ますが、分析として正しいかよりも演奏する上での理解で十分です。(だからなんちゃって理論です。)
この箇所はイ長調に転調していると考えるととてもすっきり理解できます。9小節目から1小節毎にD,T,D7,T,D,T,D7,Tです。コードで書けばE,A,E7,A,E,A,E7,Aとなり、16小節目のAのコードはニ長調のドミナントではなく、イ長調のトニックに解決しています。17小節目からはまたニ長調に戻っています。

8.非和声音
以上の分析からもう一度最初の譜例を見てください。フレーズの区切りと赤丸で非和声音に印をつけてあります。

9.装飾音
コーダ部分には前打音(短前打音)の装飾音符が出てきます。装飾音を前に出す、丁度に出すなどと演奏のタイミングを説明しますが、装飾音の演奏法は時代様式で異なります。バロックや古典派の前期はオンビートつまり拍の頭に装飾音を演奏します。ですから装飾の付いた本来の音は拍よりも遅いタイミングで発音されることになります。これはアポジャトゥーラ(倚音)の非和声音としての和声的な機能を演奏に取り入れることを重視しているからです。古典派も後期になり、ベートーヴェン位からはオンビートで演奏するか、ビフォアービートつまり装飾を前に出して、実音をオンビートに置く方法に移行していきます。ですからベートーヴェンや同じような時代のソルではオンビートにするかビフォアービートにするかはケースバイケースで議論を呼ぶ所になります。この曲の場合はどちらも有りだと思いますが、前に出すなら短く鋭く装飾としてのアクセント効果を狙い、オンビートなら短すぎずに倚音としての音程感を出すと良いでしょう。

10.終止
最後から4小節前にドミナントセブンスが現れ、最後の3小節は同じトニックコードの連続で終わります。こういう場合ではドミナトセブンスからトニックの終止による解決感を出した後でトニックの4分音符の4つの連続はテンポも音量も変化させず、最後の小節に入る時に少し溜めを作り、最後の和音を少し弱く、柔らかく演奏すると曲の終わりらしくなります。

11.動画で解説
文章で伝えずらいことを動画にしてみました。素人が喋っていますので言い間違い、聴き取りにくいなどはご容赦ください。




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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その10) [音楽表現]

0.ひとまず本編終了
ここまでの話を整理、補足して一旦音楽理論的な話は閉じます。あくまで実用上においてこれだけは知っておくと良いという内容に止めていますので、これはほんの入り口です。ですがこれだけでも十分に説得力のある演奏に繋がりますし、この先のことは具体的な音楽経験の中で深めていってください。

1.やさしい楽曲分析の手順
(1)その曲の調性を調べること。(途中に転調があればそれもチェック)
(2)旋律(主要な声部)の中の非和声音を除外しながら分かる範囲の和音を調べる。
  和音は分かる範囲でその調におけるT,S,D,D7,それ以外で良い。
(3)曲全体の構造、節やフレーズを見極める。
(4)フレーズの中の緊張度の強さを和声、非和声音、拍節、音型、などから調べる。
(5)フレーズ間の緊張度を見極める。
(6)フレーズの中のピーク、節の中のピーク、曲全体のピークを見極め、
  曲全体での高まり具合の配分を考える。
(7)フレーズの中の細かな抑揚・起伏を全体の中の起伏の中に収さめる。
抑揚の合成.png

2.再び強調
強調するのは旋律の中の音だけではありません。和声だけでなく様々な要素が抑揚を生だし、音楽表現を濃くしていきます。抑揚つまり音の対比をf,pなどの記号だけでなく音符から考えるようになると、旋律だけでなく、内声の動き、低音声部の動きなどの中にも抑揚と表情があることに気付くはずです。例えば低音声部が順次進行しているとか、臨時記号という目立つ印を見つけたり、内声に半音の動きがあるとか、何かに面白さを見つけてこの音形を聴いている人に伝えたいと思うようになると楽譜に書いてある音をパズルゲームのように今これ、次はあれという追いかけるだけの演奏ではなく、しっかりと全体を把握した上で人に伝える演奏になります。モグラ叩きゲームは反射神経を競うゲームですが、演奏にはモグラの出る順番をはるか先まで知っていることが求められます。

3.非和声音の補足
非和声音というのは非常に重要ですが、詳しい説明は書きませんでした。非和声音には刺繍、経過、掛留、先取音、逸音など種類があります。分かっているとより深い演奏が出来ますが、当面は和声から外れる音と大雑把な認識でもかまいません。重要なのは和声から外れた音というのは前後には和声に嵌る音があり、そこに対比があり、緊張があります。つまり非和声音は緊張度の高い強調すべき歌う音ということを理解していればOKです。
ただ非和声音の中でこれだけは特別知っておいた方が良いというものがあり、それは倚音(いおん)アポジャトゥーラです。アポジャトゥーラ(appoggiatura)=前打音で装飾音譜として書かれる物もありますし、実際の音符として書かれる場合もあります。典型例で言わるのはビートルズのイエスタデイの歌い出しの音です。つまり倚音は非和声音が和声音に解決する分かりやすい緊張から弛緩を表現します。アポジャトゥーラという言葉を聞く機会が多いと思いますが、終止とともに和声の解決という演奏効果を演出する立役者だからです。

4.演奏技術と演奏表現
音楽表現とは対比を抑揚として演奏に反映することという趣旨で書いてきました。細かな強弱という変化を付けるということなら分かりやすいですが、抑揚には細かなリズムの揺らぎも必要です。ルバートとかアギーギクということですね。
それに対して楽器の基礎的な訓練において音程、強さ、リズムなどを正確に出せることが必要です。つまり音楽表現における抑揚をいくら意識しても、まず抑揚を排した正確で均質な音を出す基礎的技術というものは欠かせません。稀ですが機械的に正確で均質な音が並ぶこと自体を求める音楽というものも存在します。ショスタコービチやプロコフィエフなどある意味人間性を排した機械的な音楽の中に冷徹な狂気を表現するというような曲もあります。つまり機械的正確性も抑揚の一つでさえあるのです。技術だけを求めると正確さ早さなどだけに目を向けてしまうことがありますが、技術は音楽表現のために必要な道具であるという意識を持ち、道具を整えることと、それを使って音楽を構築するということは常に並列に行われる必要があります。

一旦終了というのはとりあえずの理論的な解説の本編を終了ということで、次回からは具体例を使った実践編に進みます。



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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その9) [音楽表現]

0.音楽的な頂点を探すのは簡単ではない
演奏者としての生理として高い音が響き渡ることに喜びを見出してしまいます。歌を歌っても最高音が決まると嬉しい、楽器でも高い音が抜けて響きわたると気持ちがいい、これは演奏者としての達成感でもあり、高い音には魅力があります。ですがそのことが安易に音楽的な頂点を高い音に設定してしまう要因となります。本当にその音がピークなのかは良く吟味する必要があります。何処をピークに考えるかは文章や言葉でも同じです。「私はあたなが好きです。」と言葉で話す場合に強調する単語は「私」「あなた」「好き」のどれかは状況により異なるでしょう。ですから「好き」が一番重要だろうと短絡的には言えません。ですが「私」を強調する状況というのはかなり特別な場合かもしれません。

1.典型例
誰もが知っている「愛のロマンス」を見てます。下記の楽譜はメロディだけを抜き出した物です。良く耳にする典型的な演奏として5小節目の1拍目の高いミの音を強調する演奏です。解釈は様々なのでそれが間違いとまでは言いません。ただその前の4小節目の上行音型の到達点としての最高音という分かりやすさ、演奏者としての気持ち良さだけでそうなっているならもう少し考えてみる必要があります。
romance.png
異論があるかもしれませんが、まず全体を見て4小節フレーズに区切ります。この曲の和声進行は7小節目までEmのままです。7小節名の3拍からAmにする楽譜もあるようですが、私はEmの方が音楽構造に深みが出るのでそちらを支持します(非和声音である先取音の解決)。フレーズの中の抑揚・起伏という話をしましたが、複数のフレーズにより節を作ります。節(愛のロマンスの前半のマイナー部分)の中にも抑揚・起伏があり、大きくはフレーズ単位の起伏です。4つのフレーズを見ると和声的な複雑さを見ても起承転結を構成しています。起となる最初の4小節はまだトニックのままです。承の後半でサブドミントとなり、転にてドミナントが現れます。そして結の中で終止します。承の中でも和声的な緊張が高まるのは後半であり、最初の最高音のミではありません。4小節フレーズとした場合には起承転の順に緊張度が高まり、結にて終息すると考えるのが自然です。各フレーズの中には非和声音が散りばめられており、その和声的な緊張を味わいつつ、4小節の中で自然なクレッシェンド、ディミネンドという起伏があり、その山がフレーズ毎に大きくなると考えると音楽的なピークは9から10小節にあると考えることが出来ます。これは私個人がこのように解釈すると良いと思うという話で違う見解はあってかまいません。

2.強調するということ
今まで音楽的な緊張が高くなる部分を強調すると何気に書いてきました。強調するとは何でしょうか。単純に考えれば音量を大きくするとなりそうですが、強調の方法は沢山あります。
・音量を大きくする
・アクセントやsfのように鋭さや減衰を伴う刺激
・音を短く強くする
・音を長くする
・音を揺らす
・音色を変える
強調には痛みを伴うような刺激もあれば、包み込むような豊かさ、広がりを感じさせる、明るさを感じさせる、奥深さを感じさせる、暖かさ、冷たさ、など沢山の表現方法があります。強調に変わる言葉として、「この音を、このフレーズをもっと歌って」というように「歌う」という言葉を使います。「歌う」もその方法は一つだけではありませんが、「心を込めて歌う」のようにその音を大切に扱うと考えると単に音量のことではないと理解できるはずです。
「愛のロマンス」の場合は音の強さ(タッチの強さ)ではなく、音の幅、豊かさ、時間ギリギリまで、あるいははみ出してもその音を味わうようにという長さを意識すると「歌う」という強調に繋がると思います。


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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その8) [音楽表現]

0.和声の緊張度の判定方法
ここ重要です!
前回、T,S,Dに対して緊張度が弱い、やや強い、強いという分類をしました。主要三和音については納得いただけましたでしょうか。さて、なんちゃって和声分析ではT,S,D(D7)とその他(ショッカー戦闘員)とだけで良いとしました。では戦闘員の緊張度はどう考えたら良いでしょうか。とりあえず“何となく強い“としてしまいましょう。Sと同じやや強いにしてしまってもかまいせん。つまり前回フレーズの進行に伴う抑揚の変化として和声進行に伴う抑揚という物差しでは戦闘員は一旦「やや強い」というアバウトな判定で済ませてしまいます。
和声分析というと増和音だの減和音だのと難しい構成音の和音も正しく判定したくなりますが、分からないものを分からないままにしておいても他の着目点を使うことで十分に説得力のある演奏が可能になります。

1.旋律と和声と非和声音
さてクラシック音楽はメロディと伴奏という単純な構造ではありません。もちろん曲によってはこれがメロディでこれば伴奏だねと分かりやすいパターンで書かれている物もあります。ですが2声、3声、4声といった声部の進行の重なりが和声を構成しているという曲も多いのです。声部の進行という構造をしていると今この瞬間では何処が重要かという目立たせ具合が変化します。メロディと伴奏という分かりやすい構造ならまずはメロディを目立つように演奏しましょうとなりますね。でも伴奏音型の中でもベース音を目立たせたいとか、内声のこの動きは強調したいとか出てきます。強調したいは自分で分からなくても先生から「この音は大切だから少しはっきり弾いてください。」と言われた経験はあるはずです。
ギターの楽譜には複数声部の音が書かれていますが、音符の棒(譜幹)の向きは声部で揃えるという習わしがあります。一般のルールでは五線の真ん中より下は上向き、上の音は下向きですね。ですからギター譜の譜面を見るとまあ大体が上向きの音符が一番重要な声部だなと判断出来ます。
問題は和声を調べようとした時にある部分の全ての音が和声の構成音とは限らないということです。基本的にはメロディの動きの中に和声に属さない音が混ざります。これを非和声音と呼びます。非和声音は音楽表現においてとても重要です。ですがその前に和声を調べようとした時に非和声音を除外して和音を見つけることが出来るかが問題となります。

2.非和声音と和声の分離
楽譜を見てある部分の和声分析(T,S,D,D7,その他)をしようとした時に非和声音があると判断が難しくなります。そこでまず和声を判断する方法を考えます。何となく楽譜を見てこれが一番重要な声部(メロディ)だなと思う音は一旦除外して、その他の音だけを見て和音の候補を考えます。その候補にメロディの多くが含まれるなら判定をOKとします。なお楽譜上の縦並びの音がある和音の全ての構成音を含むとは限りません。ハ長調でミとソの音しか無かったら、これはドが省略されていると考えてTだと判断して大丈夫です。ある部分でドミソの音が殆どなのに一部ラの音があったという場合は和音はドミソのTでラは非和声音と分離します。もしそれが判断できなければラがある場所はその他のショッカー戦闘員と思っても良いです。

3.戦闘員の特徴を見つける
ショッカー戦闘員の和音の種類と機能までは判定出来ないとしても、戦闘員の中に何か特徴が無いかを探してみます。最大の特徴は♯、♭、ナチュラルの臨時記号という目立つバッチを付けていないかです。曲の調性は調号という♯や♭の数で決まりますが、臨時記号は調性の音階に無い音を表しますので、それはとても目立つ特徴です。つまり見た目に特徴のある戦闘員は緊張度が高めと判断してもほぼ間違いありません。特徴はこいついかにも見た目が悪そうだなという印象で決めてしまって良いです。

4.和声分析の手順のまとめ
・旋律の中の非和声音を除外してフレーズの中の和声をT,S,D,D7,戦闘員に分ける。
・除外した非和声音は後のために印をつけておく
・戦闘員の中で特徴的なものを見つける。
これで和声分析としてはT,S,Dのみの判定しかしていないにも関わらず、少し細かい緊張度の分類が出来ましたね。

5.この曲は何調?
大切なことを忘れていました、これ調性ありきの話です。通常の楽曲分析ではまずその曲が何調かを調べます。色々な例外はあるとしても曲の始まりと終わりをまず調べるのが定石です。現代曲のポップスよりな曲だと最後にオシャレ和音を持ってくる物もあり、判断が難しいですが、ここでは古典的な曲を原則としていますので曲の最後の和音がその調性の主和音(トニック)と考えてほぼ間違いないでしょう。
なお最後は楽譜の最後とは限りません。D.C.(ダ・カーポ) fineなら曲の最後はfineです。To CodaならCodaの終わりが最後ですね。タレガのワルツニ長調という曲があります。タイトルにニ長調と書いてあるのでニ長調で間違いようが無いのですが、この曲は最後にト長調に転調してそのまま終わっています。転調して終わることに違和感を覚える人はダ・カーポしてニ長調部分を繰り返しています。(余談)

6.転調
調号が変わっていたら転調したと分かります。愛のロマンス、ラグリマ、アルハンブラの想い出など長調と短調で分かりやすく転調する物も多いですね。転調している部分はもちろんその調性で和声分析をします。(主役の交代)
ところが調号を変えるという明示的な転調ではなく、部分転調という同じ調号のままある部分は転調しているということがあります。ソルの短いエチュードでもそういう箇所がかなりあります。これを見つけられればvery goodです。もし見つけられないとしても何か雰囲気が変わったなと思ったら当面は戦闘員扱いでも仕方ありません。後からあの違和感は部分転調だったのかと分かる時がくるで良いのです。とりあえず何も分からず書いてある音を並べるだけの演奏から、分かる部分だけでも演奏に反映することができれば大きな進歩になります。





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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その7) [音楽表現]

0.フレーズの大きな流れと抑揚
フレーズという言葉を明確にしていませんが、音楽的な区切りを持つ単位として何となくの理解で行きましょう。フレーズは始まりがあり、終わりがあります。前回、終わり方の終止ということを説明しました。フレーズによっては完全終止ではない、あまり終わりらしくない区切りもありますが、とりあえず典型的にトニックに始まりトニックに終わるフレーズを想定します。フレーズは音楽的にひとかたまりとして演奏しますので、始まりから終わりまでの大きな連続的な流れがあります。簡単な例としてカデンツのコード進行の典型例のT->S->D7->Tが各小節に割り当てられた4小節フレーズを例にとります。ハ長調の曲でコード進行がC->F->G7->Cという場合に適当に作ったメロディが下図です。(本当に適当に書いたので、何かに似てるとか、面白くないとかあってもご勘弁ください。)
和声進行の緊張度.png
クラシック音楽では和声の進行は小節単位ではなくそれこそ音符単位で細かく進行することがあります。ですが、ここでは簡単な例として4つのコードが順番に小節毎に進行するだけで考えます。前回、和声の機能としての緊張と弛緩を説明しましたが、図の中に緊張度の変化を強弱で表記しています。この典型的なコード進行はまさに「起承転結」という分かりやすい流れを作ります。トニックの機能で説明した弛緩というホッとする性質は緊張度が低いと読み替えてください。つまり和声的な緊張は階段を上るようにG7で最大となり、G7からCの終止を持って安堵して終わります。これが和声に伴う緊張度の変化であり、和声進行が一つの抑揚をもたらします。また和声進行がTからD7を目指して緊張度を高めていく、D7かTに収まるという音楽的な進行方向(ディレクション)を生み出しています。

1.ディレクションとピーク
上の例では和声のみに着目しているので緊張の変化を小節単位でしか認識できていません。これは階段状の緊張度の変化です。では旋律の音符に目を向けるともっと細かい変化があるはずです。
フレーズをどのように演奏するかで大切なことの一つは前回書いた終止を解決感を伴って演奏することです。では解決に至るまでの中ではどのような抑揚の変化を付けらたら良いのでしょうか。そのヒントの一つは和声進行の大きな流れです。抑揚の分かりやすい付け方は音量変化ですので、上図の緊張度をmp->mf->f->mpと読み替えてもかまいません。ですが気になるのはfとした3小節目の中の各音は全て同じfで良いのかということです。このたった4小節のメロディの中でも抑揚をつけるためのいくつかの着眼点が必要です。その着眼点から見つけた音楽的な緊張度を重ね合わせてフレーズの中で最も緊張度が高まる最大ピークを見つけることが音楽的な演奏に不可欠です。
つまり曲の始まりから目指すべき頂上(最大ピーク)に向かうというディレクションとそこから終わりに向けて落ち着いていくという大きな流れを把握すると音楽の見通しがとても良くなります。合わせて頂上に至るまでの小さな起伏や下山する時の小さな起伏も押さえる必要はあります。ですがどこが頂上なのかを見極めることがその人の音楽性です。その人の音楽性と書いたのは人によって解釈が異なりますし、そのことが演奏に個性を反映します。

2.最大ピークの探し方
まず大きな流れとして和声的な緊張度が高まるD7に該当する中に頂上が存在すると考えるのが自然です。では例の楽譜上の3小節目には6つの音符がありますが、その中のどれが頂点になるでしょうか。
ポイントはいくつかあります。
・音高が高いものは音のエネルギーが強い。
・和声から外れる非和声音は緊張度が高い。
・拍節(拍子がもつリズム的な強弱)が持つ、規則的な抑揚
これらの着眼点を取り込んだものが下図になります。
フレーズ.png

上行音型は自然な高揚感をもたらし、下降音型は減衰感をもたらします。これはあくまで原則論で下降に伴うクレッシェンドや上行に伴うディミネンドは特別な効果をもたらします。
4拍子の典型的な強弱を書いていますが3拍目の(強)は1拍目ほど強くないことを意味しています。
この譜面ではコードネームを書いているだけで具体的な他声部は書いてありません。ですので小節内は全て同じ和声だとして、3小節目に出てくるドの音だけが和声の構成音から外れる音になります。(但し3小節目の中にもっと細かい和声進行を入れればドが非和声音ではなくなる場合もあります。)
これらの要素から何処が頂点になるのかの正解は一つではありません。ある人は最初のレだと考え、ある人は最高音のファだと考え、またある人は3拍目のシだと考えたり、4拍目のドと考える。どれもありです。肝心なのはどれをピークと考えてそこに向かうというディレクション設定をしてそれを音楽的抑揚を持った流れとして演奏することです。しかしながら誰もが守るべきルールは最後のシからドに解決するという終止を演奏に反映することです。


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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その6) [音楽表現]

0.ドミナトセブンスからドミナントが強い終止である理由
まずはこれだけ知っていれば良いと書いたD7からTへの完全終止が何故そのような性質を持っているのかを説明しておきます。知らなくても大丈夫なので理屈が苦手な人は読み飛ばしてください。三和和音(コードネーム)を探す時に音の並びを入れ替えて3つが隣り合った団子三兄弟にしようと書きました。その時に和音を構成する音の並びは和音の機能には影響しないと書きました。和音の構成音の並びを変えることを転回と言います。転回を気にしなくて良いと書いたのは和声を判断して演奏に利用するという演奏者目線なら同じと考えてもとりあえず差し支えないからです。ただ終止において音の並び、というか各声部の進行というのは意味があります。ここは補足の説明なので分からなくても大丈夫です。もしかしたら疑問に思ったかもしれないのですが、次のように団子の和音でT->D->Tを書いてみます。
カデンツ3.png
とても素直に団子三兄弟を並べたものが上の1です。2は1のTをオクターブ動かしただけです。これを実際に音を出してみると「何が終止で解決なの?」と思った方、あなたの感性は間違っていません。実はドミナントからトニックへの完全終止を成立させるには和音の構成音の並びが意味を持ちます。前回例に出した「起立、礼、着席」のコードC->G7->CのG7をGにした楽譜が下の画像になります。セブンスのファの音を無くしてもD->Tの終止は当然成立しています。
カデンツ2.png
こちらは音の繋がりに意味を感じないでしょうか。DからTが解決感をもたらすのはシからドという半音の進行があることが重要なポイントです。音階の中で半音は2つしかありません。半音の動きというのは特別な印象を与えます。音階のシを導音と呼ぶのはシとドが近くにあり、シがドに上がることでドから始まった音階がまた元のドに戻るという区切りを示すからです。ですので「起立、礼、着席」からは和声の繋がりと解決を感じることが出来ます。
さて、下図の本来の「起立、礼、着席」でG7の7つまりファがあることで何が違うでしょうか。シからドへの半音進行に加えてファからミへの半音進行が追加されてます。ドになりたいシとミになりたいファという2つがあることでドミナトセブンスはドミナントよりもトニックに行きたいという性質を強めています。
カデンツ.png
1.同じコードなのに
トニックやドミナントの機能、性質を説明してきましたが、次のような疑問を持ちませんか?ハ長調のドミナントであるGのコードはト長調になるとトニックになるのは何故?Gのコードは何処で出てきても同じじゃないの?
この疑問の答えの前にもう少しT,S,Dの関係を見てみましょう。今ハ長調のT,S,DのコードとしてC,F,Gの3つのコードを見てみます。Cから見たらGは完全五度上の位置にあります。音階上に出来るダイアトニックコードの5番目をドミナントというのだから当たり前と思ってもらえたら話は早いです。視点を変えてGからCを見たらどうでしょうか。G目線でCを上に数えたら4番目です。つまりト長調ではGはトニックでCはサブドミナントです。次にハ長調のサブドミナントであるFから見たらCはドミナントです。正確に分からなくても良いのですが、何となくグルグルとお互いの関係が移動していると思いませんか。もっと分かりやすい話として完全五度を繋いで行くと五度圏という一周回って元に戻るという関係があります。C->G->D・・・・・・F->Cという関係です。これは今Cをスタートにしましたが、完全五度が円周上に並ぶなら、12個の音名の何処をスタートにしても隣通しの関係に変わりはありません。
私は中学生の頃からクラシックオタクでビートルズにもアイドル歌手にも興味を持っていませんでしたが、たまたま友人が”さだまさし”のファンで当時聴かされた「主人公」という歌が好きでした。この歌詞のテーマは「人は自分の人生においては誰もが主人公」ということですね。はい、お分かり頂けたでしょうか。ハ長調における主役はCであり、C目線の物語の中ではGはドミナントという位置付けにいます。でもGを主役にしたスピンオフドラマではGは主役であり、GにとってのドミナントはDになる。要は誰の目線で見るかで物語が変わるということです。小節やドラマでも群像劇という手法があります。スピンオフは脇役を主役とした別の物語ですが、一つの物語の中で場面場面で各登場人物の目線に切り替わると話を理解するのは難しくなりますが、面白さも増加します。一つの物語(一つの曲)の中での目線(語り手)の交代は音楽においては転調という手法で実現しています。

3.サブドミナント
上の話でCからG目線に切り替えた時にC目線のSはG目線から見たら何かについては書いていません。ここは込み入った話になるので読み飛ばしてかまいません。ハ長調のコードC,F,Gに戻ります。Gから見たCは上に書きました。ではGから見たFは何か。Gから見るということはト長調になりますので調号は♯一つです。Gから上に数えていくと音階上の音名はF#に辿り着きます。Gから見たFはF#の半音下で短七度です。長音階のダイアトニックコードの七番目、ローマ数字の和声表記ならVIIは他のダイアトニックコードと異なり、根音と第五音が完全五度ではなく減五度の関係にある減和音です。ト長調のVIIの和音をコードネームにするとF#m-5(F#m♭5)という難しいコードになります。このコードの根音を半音下げるとFになり、第5音を半音上げるとF#mと単純な三和音になります。ある和音の構成音のどれかを半音上下した和音を変化和音と呼びます。つまりト長調から見たFコードはダイアトニックコードVIIの変化和音になっています。
もう一つ和音の関係で構成音に共通音が多い物は機能や性格が近いと考えられ代理和音と呼ばれます。ダイアトニックコードの主要三和音から漏れた和音、ローマ数字表記を用いますと、II,III,VI,VIIはトニックのI、サブドミナントのIV、ドミナントのVのどれかの代理として用いられます。なお代理機能の相手は必ずしも一つとは限りません。父似なか、母似なのか、状況によってどちらとも言えるのと同じです。
この似ているという関係を無理やり広げるとVIIはIIに似ていてIVの遠い親戚見たいに見えます。ですからドミナントに転調すると転調前のサブドミントはずいぶん遠くに行ってしまいます。

4.脱線の脱線
どんどんどうでも良い話になります。音楽の話は理屈っぽいのですが、短三度と長三度を足すと完全五度になったり、完全五度の関係を逆にみると完全四度だったりと数学やパズルのような構造をしています。だからこそ、音楽を作る上でパーツの組み合わせに選択肢があり、似たような物でも一つパーツを動かすだけで違う音楽になります。
ところで音楽を奏でる楽器において音の科学として自然倍音列というものが重要な役割を持っています。ギターを弾く人には分かりやすい話で自然倍音列とは自然ハーモニックス奏法で出せる倍音列のことです。音の協和という脱線話で説明しましたが、周波数の比率が整数比になる音列を自然倍音列といいます。もしかして物理で習ったことを覚えているかもしれませんが、気柱の共鳴という管楽器の音の原理があります。教科書では両端開管に出来る共鳴が自然倍音になると書かれていたと思います。実は実際の管楽器では均一な内径で両端が開放端の楽器はありません(多分)。金管楽器は自然倍音列を利用して音を変える代表ですが、実は口を当てるマウスピース側は閉管です。つまり共鳴の原理的には片側閉管片側開管です。ですが両端開管の自然倍音列を鳴らすことが出来ます。それは管の内径が一定ではなくベルに向かって広がる構造をしてるからです。この事により開放端であるベル側は極めて多きな開口端補正が生じます。何が言いたいかというと金管楽器は意図的に自然倍音列が出るように形状を工夫しているということです。つまり偶然に自然倍音列が出たではなく、自然倍音列が出せる楽器が作りたかったのです。それは何故かというと簡単な話で、協和音程で説明した純正の長三和音を自然倍音列から作り出せるからです。昔のホルンやトランペットはピストンやヴァルブなどない信号ラッパです。信号ラッパも自然倍音列に含まれるドミソが出せることが楽器として最低限の役割を担えたわけです。
自然倍音列.png

5.7の不思議
もうほとんど、だから何というどうでも良い話です。上の図で自然倍音列は基音となる1倍音から第6倍音まではドミソしがありません。その次の第7倍音はシ♭です。つまり第4倍音のドから見ると短七度ですね。ですから4倍音から並べるとドミソシ♭となります。これドをCとするとC7のコードです。今ハ長調で考えてCを基音とする自然倍音列とダイアトニックコードを比べます。主音Cの四和音はCM7です。自然倍音列から出来るコードはC7です。偶然かもしれませんが長音階の7番目の導音は長七度にあり、自然倍音列の第7倍音は主音からみて短七度、何故7がこうも重なるのか意味深ではないですか?
もう一つ自然倍音列は周波数が整数比になる数学的に綺麗な音程が並びます。これは無理やり均等に並べた平均律の音程とは異なります。自然倍音を並べるとセブンスコードが出来るけれど、その第7音は短七度でその調性における導音より半音低い。導音のシはドになりたいシという人が人為的に意味を持たせた物と考えられます。今は長音階だけで考えていますが、中世の教会旋法という音階の中にはミクソリディア旋法のように自然倍音列と旋法の音列の音が一致するものもあります。要するに機能和声という便利さを取ることで自然科学的な美しさからは妥協せざる負えなかったのです。それは平均律と純正な和音という矛盾にも表れていますし、上に書いたサブドミナントのスッキリしなさ加減にも表れているのかもしれません。
なお自然倍音列の第7音は主音に対する属音を基音とする自然倍音列に平行移動すればドミナントセブンスを形成できるという便利さも持っています。



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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その5 ) [音楽表現]

0.主要三和音の機能
ある調性における主要三和音だけを理解すれば良いと何度も書いています。もう一つ属七和音も重要と書いていますが、属七和音(ドミナントセンブンス)はドミナントの機能をより強化する役割があるという点で、機能的にはドミナントセンブンスはドミナントに含まれると理解しても大丈夫です。ですのでこここではトニック、サブドミナト、ドミナントの3つの主要三和音の機能的役割を説明します。また今後の文脈上でドミナトとドミナントセブンスは同じ物として使うことがあります。

1.言葉の意味
トニック、ドミナントという用語は和声の機能としての意味から付けられています。和声の定義としてはある長音階または短音階の各音を根音とした三和音(タイアトニックコード)の1番目であるIの和音、Vの和音に対して機能的な役割から付けられた別名がトニック、ドミナントです。サブドミナントは名前の通りドミナントの副官ということですね。

トニックとはトニックウォーターのトニックと同じtonicです。トニック本来の意味としては強壮とか体調を強めるという意味があり、音楽用語としては調性の主役としてその調性における代表選手です。例外は沢山ありますが、典型的にはトニックに始まり、曲の最後もトニックで終わります。また曲中の随所に主役として顔を出します。

ドミナントは元々の意味は支配するということです。トニックが強化するということなら、支配すると強化するのどちらが偉いの?となりますが言葉遊びをしても定着した用語ですので音楽的な意味や役割の方が重要です。最初の方で書いたように対比ということが何かを表現する時に重要です。主人公ただ一人が何もない空間を漂っているだけでは物語が進みません。主役であるトニックに対して敵かライバルか恋する人か何らかのサブキャラが必要です。トニックに対するサブキャラがドミナントであり、ドミナントがあることで主役の立場が明確になります。

サブドミナントはサブキャラの2番手という位置づけです。ドミナントよりは少しだけキャラが薄いので、ドミナントの代わりだったり、ドミナントへの仲介をします。

2.その他の脇役たち
何気にタイアトニックコードと書いてしましましたが、音階上に出来る三和音は7個出来ます。ですからトニック、サブドミナント、ドミンナント以外に4つあるわけです。さらに7つの和音は綺麗にくっついて並んだお団子ですが、少し歪に刺さった捻くれ物や4つ以上の団子を付けた物など沢山います。ここではみんな一纏めに「その他」にします。例えばショッカーの戦闘員とします。戦闘員は覆面していて一人一人の顔は分かりません。当面、ショッカーの戦闘員扱いでも良いというのがここでの方針です。
ですが本当はショッカーの戦闘員の中には実は味方だったり、ちょっと強めなキャラがいたりします。ですが誰が敵か味方か分からないなら信じるのは自分だけという考えで進めていきます。

3.和声の基本
和声進行、コード進行と言った方が分かりやすいでしょうか。基本ルールはとてもシンプルです。基本はトニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)だけから出来ています。ではT、D、S以外のショッカー戦闘員達は何処に入れるのいう疑問があると思います。戦闘員はTに近いか、Sに近いか、Dに近いかでTDSの代わりとして入れることが出来ます。作曲家は戦闘員のキャラをしっかり把握しているのですが、我々は戦闘員のキャラまでは知らないけど戦闘員が出てきたら何かの代わりにいるのだなと思うことにします。

4.最も重要なのは典型的な終止
このシリーズでは正確なことや網羅性を捨てて最低限の知識だけを用いることにしましたので、終止といっても完全終始、偽終止、半終止など種類があるよという細かなことは省き典型的な終止だけに目を向けます。それはドミナントからトニックに進行する箇所を見つけるということです。終止といっても曲の終わりだけを言っているのではなく、フレーズの切れ目に沢山出てきます。それを見逃さずに終止を終止として意識して演奏するだけで、演奏の説得力がまるで違います。このドミナント(強化されたドミナントセブンス)からトニックが和声の解決の典型であり完全終止といいます。完全終止は音楽に区切りを付ける最も重要な和声の進行です。
ですので当面は
「ドミナントセブンスからトニックに進行している箇所だけは見逃さない」
だけで良いです。

5.終止形(カデンツ)
上で書いた終止とは曲やフレーズの最後の2つの和声の進行です。終止形と言った場合には少し違う意味でTで始まりTで終わるまでの和声進行のパターンのことです。終止形の最後には終止があります。このTで始まりTで終わる終止形は音楽全体のコード進行の基本形でもあります。単純な音楽であれば延々と繰り返されるカデンツの基本形のコード進行の上に旋律を乗せるだけでも曲として成立します。単純すぎると思ったら途中で枝分かれさせて寄り道させたり、ショッカーの戦闘員を配置して変化をつけることが出来ます。
基本形は次の3つだけです。
T -> D -> T
T -> S -> D -> T
T -> S -> T

DはD7になることでその性質を強めます。
この3番目のS -> Tも終止の一つですが、変終止、いわゆる「アーメン終止」という少し穏やかな終止です。

6.終止感を出すこと
曲のコード進行がカデンツを基本としているので「見逃さない」としているD(D7)->Tは曲の随所に出てきます。これを音楽表現として演奏するためにはどうしたら良いのかを考えます。
上のカデンツの典型的な誰でも知っているフレーズがあります。「起立、礼、着席」のあのチャーン、チャーン、チャーンはT->D7 ->Tのカデンツです。ハ長調のコード進行ではC->G7->Cとなります。但しメロディとして認識している一番上の音はド->シ->ドとなっています。
カデンツ.png
「起立、礼、着席」において人の心理がどう変化するかは様々だと思うかもしれませんが、音楽的な原則としては「平常心->緊張->平常心」です。平常心はリラックスした状態で緊張の対義語としては弛緩です。これがD7からTへの緊張から弛緩であり、その変化を解決感と言っています。
例え話だとすると「いないいないば~」これを「強面おじさんに眼つけられたと思ったら、ニコッとほほ笑んだ」としても良いです。「いないいない」は見えないことの不安で緊張状態です。「ば~」は親の顔を見た安心感つまり弛緩ですね。
本当に良くある典型的で、あまり好ましくないけれど、ありがちな演奏として、曲の最後の和音(T)を強く演奏してしまうこがあります。中には曲の終わりなのだから決然とはっきり弾こうと思っている人もいそうです。この強くというのは対比関係での強くです。それは直前にある(D7)との対比関係において相対的にD7よりTが強い演奏になってしまうと終止を理解していない演奏と言われてしまいます。fやffで力強く終わりたい場合にD7とTが同じ強さという場合はありますが、Tの方が強いというのはまず無いと考えておいて良いのです。
ところがギターの場合に困るのが例えばコードEで終わる場合に終止はB7->Eというコード進行になります。楽器の特性としてB7は鳴らし難く、Eはとても良く楽器が鳴るコードです。ですのでかなり意識していないと終止感の無い演奏になってしまいます。(私は悪い例のことを心の中で最後っ屁な演奏と呼んでいます。)

上の「起立、礼、着席」の譜例はギターで演奏することを想定して書きました。これを弾いてみようとした時にCの方がG7より鳴らしやすくないでしょうか。ドミナントセンブンスの緊張を音に出すというのは結構難しかったりするのです。

ラグリマのホ長調の終わりもホ短調の終わりもドミナトセブンスからトニックへの終止ですが、トニックのEやEmの方が盛大に響いてしまうというのはギターならではの「あるある」です。

(*)次回は終わりがるなら始まりもあるという話になるでしょうか。



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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その4 またまた横道) [音楽表現]

また余談の回です。機能和声の機能には2つの意味があると思っています。一つは今後説明していくある調性の中での音楽の流れを作る骨組みとしての機能です。もう一つは調から別の調への移調を行う機能です。バロックの対位法を軸にした音楽にも和声の考えは含まれます。複数声部の進行においての厳格なルールである対位法の中から和声に着目して音楽の骨格を作ろうとしたものが和声法です。ですから対位法と和声法は対立する関係ではなく視点を変えているだけとも言えます。しかしながら和声という軸が出来ると和声的な展開から音楽を形成できるようになります。バロックまでの音楽は歌曲を元とする形式やダンス由来の形式が主で、器楽においても音楽としての複雑さを持つものはフーガであったり、変奏曲であったりします。シャコンヌやパッサカリアも変奏曲の一種です。古典派の時代になり、機能和声を軸としたソナタ形式が誕生します。前にも書いたようにソナタ形式は和声的な対立と展開と調和という大きな物語性をもっています。そのことをもう少し説明します。
ソナタ形式は大きく提示部と展開部と再現部という3つに分かれます。また提示部においては第1主題と第2主題という2つの主題を持ちます。三部形式をABAで表記するならソナタ形式の提示部はABですね。このAパートとBパートには和声的なルールがあります。交響曲第1番ハ長調という場合にこのAの調性からハ長調と言っています。Aの調性に対してBは違う調性にするというルールがあります。Aがハ長調であればBはト長調やヘ長調あるいはイ短調のようにハ長調に対して属調、下属調、平行調などの近親調をBに使います。このAとBが異なる調であることで対立性を持たせます。展開部においてはAとBのテーマを用いながら複雑に転調を伴った展開をさせます。展開部が作曲家の腕の見せ所であり、AとBの対立性をより顕著に音楽的な緊張度を高めるようにします。これが物語性というところに書いた対立からの争いです。激しい展開(争い)を経て「喧嘩の後の友情」というようにAとBは対立から和解へと進みます。和解を具体化する手段が調性で再現部においてAは提示部と同じ調性を取ります。しかし第2主題のBは転調することでAとの親和性を深め和解を示します。AもBも長調、短調のように同じ長短の場合はBはAと同じ調性になります。Aがハ長調ならBもハ長調です。AとBが長短で対立していた場合には同主調になります。提示部でハ長調とイ短調であれば再現部ではハ長調とハ短調です。
誰もが知っているであろうベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調「運命」の第1楽章はAがハ短調でBが変ホ長調で提示され、再現部においてはBがハ長調になっています。この基本構造に序奏や経過部、コーダなどを加えて複雑化することで後期ロマン派には単一の楽章だけで演奏時間が30分という曲も作られるようになりますが、骨格となるソナタ形式と調性のルールは原則的には守られています。そしてこのソナタ形式における和声の展開を可能としているのが機能和声なのです。
ギターを抱えてフォークソングを自作することと、クラシック音楽を作曲する上で必要とされる知識は別次元です。ですが作曲されたクラシック音楽を演奏するという立場であれば和声法を作曲家ほどに熟知している必要はありません。もちろん知識が多ければ演奏により生かすことは出来ます。ですが、ここでは最低限の初歩の初だけでも何も分からず演奏するのとは大違いになるという立場でこのシリーズを書いています。
私は良く和声感のある演奏、無い演奏という感想を書きます。ここで言う和声感とは厳格な和声分析が出来るという学問的な知識ではなく、和声の変化を感じて演奏しているか否かです。私の音楽感に大きな影響を与えてくださった元東京フィルのオーボエ奏者の齋藤勇二先生が管セクションの指導の時に良く言っていたことがあります。「和声が変わることで色が変わることを意識して色の変化を味わって演奏してください」と。往々にして低レベルな管楽器奏者は和声を意識することは和音の構成音を調べて音程を操作することだと思っていたりします。大切なことそれよりも和声の変化を感じて味わうこと、その中に居心地の良い自分の居場所や大切な音に注意を向けることであり、そうすれば詳細な和声分析などしなくても表情に富む演奏が出来ます。そうなれば、ここは上手く行かないという部分だけを調べてみるというずぼらでも良いのです。演奏のための知識やノウハウは必要ですが、感覚を研ぎ澄まし音を聴くということが演奏者にとって最も大切なことです。



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演奏者のための実用的ななんちゃって音楽理論(本編その3) [音楽表現]

1.長調と短調における重要和音
さてやっと本題に踏み込みます。本編その1に書いたようにここで取り上げる和音は限定します。そして基本的には和音の機能を表すトニック、ドミナントといった呼称を使います。長調にも短調にもトニック、サブドミナント、ドミナントがありますので、それぞれについて説明します。何度も言いますがここで覚える和音はトニック、サブドミナント、ドミナントとドミナントセブンスの4種類だけです。どうか挫折しないように。

2.長調の場合
長調の代表としてハ長調を例に説明したものが下の図になります。三和音のところで説明したようにドが根音であるもの、ファが根音であるもの、ソが根音である三和音と四和音の4つだけを知ってください。この他に音階上でレやミやラを根音とした和音も長三和音あるいは短三和音を形成しますが、それらはとりあえず放置します。分からない複雑系に分類してしまってください。ハ長調を例にしていますが、これをニ長調やホ長調などに置き換えても応用可能でしょうか?音階上には7つの音があります。1番目の音、4番目の音、5番目の音を根音とする重要和音がその調におけるトニック、サブドミナント、ドミナントとドミナントセブンスです。
ハ長調.png
3.短調の場合
短調は少しややこしいです。ここでは良く説明に利用されるイ短調ではなくハ長調と同主調(同名調)の関係にあるハ短調を使います。その理由はハ長調のドミナントとハ短調のドミナントを見比べてほしいからです。短調の音階には自然短音階、和声的短音階、旋律的短音階という3種類があります。何故3つもあるか、それは後で説明する7番目の音の導音としての性格の強化が理由です。7番目の音から1番目のオクターブ上の音に上がる時に半音の関係があると(ハ長調のシとドの関係)導音としての性格が強まります。でも7番目だけを半音高くすると6番目と7番目の音程が広くなり、少し不自然です。それで上昇形の時だけ6と7番目を半音高くする旋律的短音階が出来た理由です。
短調の和声は和声的という位ですから和声的短音階を基準にトニック、サブドミナント、ドミナントとドミナントセブンスを作ります。この時にトニックとサブドミナントは短三和音ですがドミナントは長三和音になり、しかも同主調のドミナントと一致します。これはドミナントを経由して長調と短調を行ったり来たり出来るという便利機能なのです。
ハ短調.png
次回からはこれら重要和音の性格と機能を説明していきます。



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