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アルベニス セビリア考 [ギター曲]





読まれて不愉快に感じるであろう人もいるかと思いますが、自分が正しいとか、賛同して欲しいというつもりは無く、あくまで私はこう思うというつぶやきです。
ギタリストのレパートリーとして定番とも言えるアストリアスやセビリアなどプロ、アマチュア問わず聴く機会がとても多いです。私自身は取り組む曲の優先度として編曲物は避けるという考えなのでアルベニスは積極的に弾きたいとは思っておりません。ですがギター愛好家としてはセビリアはとても魅力的な曲だと思いますし、上手なアマチュアがこぞって演奏するのも分かります。
多分、昨年位から4人位はアマチュア仲間のセビリアを聴いていると思います。皆さん上手な方なので素晴らしいと思いながらも、何となく冒頭数小節特に3小節目が物足りないと感じる演奏が多いのです。それで昨夜リョベート編のギター譜とピアノスコアを見比べ、youtubeでセゴビア、ジョン、ブリームやラローチャなどのピアノ演奏を聴いて見ましたが、ピアノ演奏でさえアルベニスが書いている強弱を反映している演奏がありません。ピアノ譜を見て良かったのは編曲物としては珍しく原調が維持されていることです。
ここまで書いてから、ふと参照しているimslpのピアノ譜は信頼出来るのかという疑問が生じました。
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そこでヘンレ社の原典版を見てみたら唖然です。
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imslpにあったのはJuan Salvatによる改定版とのことで、編者の解釈が多分に盛り込まれています。アルベニスの原典ではダイナミクスの情報が少なく演奏者の解釈に依存する部分が多いのです。Salvat版もアルベニスの指示を無視している訳ではなく補完しているとも言えますが、無批判に従うべきではありません。
気を持ち直して続きを書きます。
さて私の中で勝手に形成されていたセビリアのイメージですが、多分、昔に聞いたセゴビアやジョン、ブリームなどの記憶が脳内で変化したものだと思います。今、改めてこれらの演奏を聴くと思っていたものとはかなり違います。ブリームなんて5小節目の2拍目にかかるタイを無視して弾き直しているのでとても奇異に感じます。ブリームはさておきアルベニスの難しさはオリジナルのピアノ版をなぞるだけでなく、そこにギター的な要素を加えることの加減です。ピアノでは単なる和音がラスギャードにすることでスペイン的な雰囲気が出たりすることがギターでアルベニスを弾くことの醍醐味であるのは確かです。もう一つ音楽解釈、表現の上でロマン派の音楽で民族性が反映されているアルベニスの場合は楽譜を読むだけでは良い演奏には繋がらず、その曲の背景、土着な音楽の特徴という楽譜だければ読み取れないリズムや歌いまわし、ルバートやアゴーギクなどを知る必要があります。そういう意味ではラローチャのようなスペシャリストの演奏を聴いたり、スペイン音楽の特徴というような知識や教えを受けることも必要になってきます。
しかしながらクラシック音楽の演奏者としては楽譜に書かれた情報というものは最重視すべきであり、先入観を捨ててまず楽譜と向き合うということも必要です。
ゼビリアのヘンレ版の冒頭を見てみます。普通に音符だけを見て最初の2小節は導入であり、3小節目から主題が提示されていると分かります。主旋律は3小節目の最高音のgの音から始まりますので、このトップノートは最初に提示される主題の開始として明確に演奏されるべきです。ところがラローチャの演奏を聴くと最初の2小節が元気よく華やかでむしろ3小節目からの方が控えめに聴こえます。解釈としては最初の2小節はリズムを出し、3小節目からは旋律として歌うということ、和声的にも2小節目の最後がドミナント7で3小節目はトニックだからとも言えます。ラローチャの演奏が良くないとか、物足りないとか言うつもりはなく、ピアノ演奏として素晴らしいと思います。問題は3小節目の3拍目にアルベニスが書いたppの指定です。これをどう解釈するかは色々あると思います。何も書かれていないので冒頭からはmfとして3小節目で主和音のG-durを高らかに提示してsubito ppとする、Salvat版のようにディミネンドしてppにする、そもそも最初から強く弾かずに緩やかにppに至るなど様々です。ですがppの指定は無視すべきではありません。
最初に戻りますが導入としての2小節間と主役登場の3小節目からを色彩的に弾き分けることが出来るのがギターならではの利点です。この三小節目のGの和音をpimaの指で弾くのか、pで撫で下ろすのか、ラスギャードにするのかで印象が異なります。これは私の好みでしかありませんが1弦15フレットのgの音を如何に華やかに響かせるかをギターで演奏するなら重視します。なので私なら指で弾き最高音を重みを乗せたaで最も響く方法をとるか、ラスギャードで和音全体を華やかに鳴らす方法を取ります。pで弾くと最高音が不発に終わることが多いというのが色々な方の生演奏を聴いての感想であり、不満に感じるところです。なお別解釈として3小節目を強調せずに優雅に演奏したいなら2小節目3拍目をキッパリと演奏して、3小節目に入る時に間を取るとことさら3小節目を強調しなくても印象的な効果が得られるかもしれません。ではその後はどうするのか、ジョンのようにラスギャードを多用してしまうとアルベニスが書いたppの指定を無視することになります。
ヘンレ版を見るとアルベニス自身は3小節目に書かれたppの後で殆ど強弱を指定していないので解釈の幅は大きく演奏者の音楽性が大きく問われる曲です。逆にだからこそ13小節2拍目からfで14小節目2拍目からpでエコーにするというアルベニスの指定はとても重要です。
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残念ながらリョベートの編曲ではこの強弱の指定や3小節目3拍目からのppなどは無視されています。またリョベート版の音の選択もベストとは思えず、編曲物を演奏するなら編曲された楽譜だけでなく、原曲のしかも信頼できる版の楽譜を参照し原曲と作曲者の意図を大きく逸脱しない範囲でギターならではの効果と表現を工夫するという難しい作業が必要になりますね。やはり私個人としてはギターを弾かないクラシック愛好家にギター音楽としてアピールできるギターオリジナル作品を重視したいです。




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