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消音と共鳴の制御 [演奏法]





ギターという楽器は他の楽器にない特殊性があります。それは弦の振動を意図的に止めない限り音が完全には止まらないということです。ヴァイオリンのような弓を使う、管楽器や声楽のように息を使う楽器は音を持続させるために弓を動かし続ける、息を出し続ける必要があり、音が始まり、持続し、止まるということが一連の動作にまとまっています。ピアノはハンマーが弦を叩くという点でギターに近いのですが、ピアノは鍵盤を押えてる間は音が持続し、鍵盤から指を離せば音が止まります。ですからピアノも音の始まり、終わりが押す離すという一つの動作の中で完結します。音を出すという動作と別の動作で音を止めなければならない楽器の多くは打楽器です。打楽器でも音が長く続かない楽器、例えば小太鼓、木琴、カスタネットなどは意図的に止めるというこはしていないと思いますが、音が持続する大太鼓、シンバル、ドラ、ティンパニなどは叩くという動作とは別に楽器に触り振動を止めるということで音の長さを調整しています。

音価(音の長さ)を守るというのは演奏の基本です。ギターは音が減衰するので音が持続しないということの方に意識が行ってしまいますが、持続させることと同じく止めるということも大切です。音を止めることを消音と言っていますが、消音の意味・意義を理解して演奏している人はあまり多くないのが現実です。一流のプロ奏者は消音を含めた素晴らしい演奏技術を持っていますが、プロとして活動されている人でも消音に無頓着な人も少なからずいます。ギターの教本などでも消音の必要性、技術を説明するものが殆どなく、ギター教師であっても指導しない、出来ない人もいます。実は私も独学時代は消音に無頓着でした。先生に習うようになり消音の技術を教わったことでギター演奏の見方が大きく変わりました。

消音といって誰でもしているのは曲の最後の音を右手を弦の上に被せ音を止めること、スタッカートや休符付きの短い音符で押弦した指をもう一度弦の上に乗せて止めることでしょうか。ギターの音は左手で押える音は指を離せば音は消えます。但し離し方によっては意図せずに解放弦が鳴ってしまいますので、そうならない為の工夫が必要なことがあります。一番問題なのが解放弦を弾いた後でその弦の何処かのポジションを押えるまで解放弦は鳴ったままになることです。

ギターの曲ではベース音に解放弦が使えるホ長調、ホ短調、イ長調、イ短調、6弦をDに下げたニ長調、ニ短調が圧倒的に多いです。それはこれらの調整では5弦、6弦を解放でベース音として使えることが多いので、上の声部の自由度が大きくなるからです。ですから楽譜上で全音符の6弦のミ(レ)と5弦のラの音の全音符という記譜がとても多くあります。小節線を跨ぎ6弦のミの音から5弦のラの音に変わる時に5弦を鳴らすと同時に6弦を消音するということ、逆は6弦を鳴らすと同時に5弦を消音することが求められます。最も大きな理由の和声を濁らせるからです。例えばAのコードからEのコード、イ長調のドミナントからトニカへの進行で5弦のラが鳴ったままではEの和音に含まれないラの音が混ざってしまいます。逆にEからAならばミの音はAに含まれるから良いと考えてしまうかもしれませんが、ベース音の進行がボヤけてしまうこと、最低音として記譜にない音が鳴っていると和音の音の並びが転回して作曲者の意図した音楽構造が崩れてしまいます。また楽譜に書かれた音符の長さを守るというのは他の楽器であれば当たり前のことです。

但しギターの場合には杓子定規に音価(音の長さ)を守らなければらないということではありません。典型的にはアルペジョ(分散和音)の音を全て書かれた音価で演奏するのは不自然ですし、ギターを想定していれば作曲者もそういう意図で書いていると解釈できます。他にも消音することがレガートを損なったり、不自然な印象を与えてしまうような場合は自然な減衰に任せる場合もあります。またカンパネラ奏法のように響きが重なることを想定している場合も例外となります。

ですがソルやジュリアーニといった古典的な作品や調性、和声がしっかりしている曲では消音はとても重要な要素となります。しかしいかにも止めたということが分かるようでは不自然ですから、聴いている人には意識させずに音価をコントロールするというのはとても高度な技術であり、響き、音色をコントロールするという点で奏者のセンスが問われます。

またギターの特性として共鳴音が鳴るということがあります。これは多弦楽器であればヴァイオリンでもあるいはピアノでも共鳴は発生します。ヴァイオリンも他の弦が共鳴する音とそうでない音の差はありますが、擦弦で強いエネルギーを与えていることで、共鳴の影響はギターほど顕著ではないように思います。またピアノは全ての音高の弦が張ってあるためどの音を出しても同じような比率で共鳴が発生しますが、ペダルを踏まなければ弾いていない音はダンパーフェルトで押えているため、自由に共振することはありません。ところがギターは音高によって共鳴の強さが異なります。1弦のミやラの音を出すと5弦や6弦が大きく共振して共鳴していることが分かります。ところが半音動かすと他の弦はあまり共振しないというように音によって大きな共鳴を伴う音、あまり伴わない音があります。音による共鳴の差があまり出ないようにしてしまおうと考えたのがイエペスの10弦ギターです。面白い発想だとは思いますが、私は不揃いなことも含めて6弦ギターに魅力を感じます。

共鳴音は時には邪魔になり、時には演奏効果として利用できます。利用するとはポジション移動の時に共鳴音が鳴っていることを利用してフレーズが途切れないように移動することなどです。また現代曲などでは共鳴を含めた神秘的な響き、ギターらしい演奏効果を狙った作品も沢山あります。

逆に共鳴が邪魔になる場合とはソルなどの古典的な作品の場合です。調性と和声が明確で音程感が明確なことが求められます。共鳴音には倍音が沢山含まれますので、響く心地良さはあっても音程の純度は失われます。そのため低音弦の共鳴をさせないために弦に触れておくという消音と似た技術も必要になります。
次のyoutubeでセゴビアの「魔笛による主題による変奏曲」の動画を見ると、右手の親指の側面で低音弦の消音と共鳴を押えていることが良く分かります。
https://www.youtube.com/watch?v=h7hAMYPgiqU

消音の方法は一つだけではありませんが、右手親指の側面を使うというのが最も合理的だと思いますし、多くの人が使っている方法です。ですがセゴビアのように小さな動きで行うには親指が弦に対して角度をつけずに弦に平行になっていること、手の甲が弦に近い必要があります。右手親指が弦に平行であれば6弦を消音しながら5弦の音を出すことが可能です。逆に親指に角度が付いているとこれが難しくなり、親指を回転させるように5弦を弾いてから時間差で6弦に触れる必要があります。
逆に6弦を弾くと同時に5弦を消音する時はアポヤンドで5弦を消音することが出来ます。なおアルアイレで弾いて時間差で素早く5弦に触れるということも可能です。6弦を弾く時に4弦を消音するにはアポヤンドは使えないので素早く親指を4弦に触れるようにするか、右手のi,m,aの余っている指を使う、左手で余っている指を使うなどの工夫が必要です。



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